やっと出た。『蟲師』との出会いは、アフタヌーンに連載が始まったときにたまたま立ち読みしたことだった。ああ面白いなあと思いながら時は過ぎ、ふと本屋で単行本が出ているのを見て買ってしまったのが始まり。それから「蟲」にとりつかれた。
愛とか友情とかとは別次元で面白い。動物と植物の中間的存在という蟲の位置づけが絶妙で、淡々とした少しもの悲しいストーリー運びも良い。登場人物の口元がゆるいのも好き。筆を使った緩く流れるような絵のタッチと、民話調のストーリーが上手く合っている。褒め過ぎか。とにかく、『蟲師』のように「むかしむかしあるところに…」的なマンガは好きだ。
俺の中の「むかしむかし」的マンガの代表は、奈知未佐子の『羊谷の伝説』と『天女の酒』*1。こちらは『蟲師』と違って、もっと軽やかで、設定も本当の昔話や伝説めいたマンガ。でも、俺が涙する数少ないマンガなのだ。全然涙誘う感じじゃないのに、泣いてしまう。中でも、「おいてけ山の狸」と「花渡り」という作品が泣ける*2。前者はケチな狸と、山で迷子になった幼い娘の交流と別れ。後者は思っていることと逆のことしか言うことのできない天邪鬼というキャラと、季節を司る花乙女・なずなの交流と別れを描いている。これがほんとうに切ないのだ。
登場人物の多くが人間でない者たちである。このことは、彼らがいわゆる社会の「外れ者」ということを示しているのだろう。そういった者たちの交流と別れという話が多い。泣き所としては、単純といえば単純。でも奈知未佐子の描き方は、優しいながらも、表現としてはサラッと描いている。クライマックスの場面で、スッと視点が引いて、コマの中にキャラがぽつんと立っている姿が俺の涙腺を刺激する。

*1:これらの作品は80年代前半に小学館の『プチフラワー』で連載していた。単行本は残念ながら絶版。

*2:「泣ける」って表現は嫌いなのだが…