今までさぼってた分を更新します

T・R・ピアソン『甘美なる来世へ』
ユーモアあふれる饒舌な語り口に乗せられて、情けなくも切ないところへと連れて行かれる感じ。ベントン・リンチの「どうしてこんなふううになっちゃったんだろう」的な気持ちがそこはかとなく浮かび上がってくる。脱線に告ぐ脱線も、長い小説ならではの醍醐味。
スティーヴン・ミルハウザーエドウィン・マルハウス』
ミルハウザーの処女長編。11歳で夭折した作家の伝記という設定。作家本人よりもむしろ伝記作家ジェフリー・カートライト(Jeffrey Cartwright)の異常なまでの細部へのこだわりが浮きたつ。それは、あたかも一人の作家を伝記という形式によって創造しようとする*1企てにもみえる。創造という行為に対する異常なまでの執着は、『マーティン・ドレスラー』や「アウグスト・エッシェンブルク」にも通じる。その創造行為を支えるのは、対象を視覚的・並列的に描写することによって現れる一つの人工構築物である。
よしながふみ『愛すべき娘たち』。久しぶりに泣きそうになった。「分け隔てなく人に接しなさい」と言われて育てられた莢子の描写が秀逸。必読。
ティム・オブライエン『世界のすべての七月』
2000年の7月、1969年度卒業生が同窓会に集まる。卒業生の過去の出来事と現在の生活が交互に語られながら、失われたものと残されたもの、生と死、結婚と離婚をくぐりぬけた(そして、くぐりぬけつつある)者たちの群像劇。ヴェトナム戦争で片足を失ったデイヴィッド・トッドが、覚醒剤による幻覚と現実の間を漂いながら、サヴァイヴァルしている。『カチアートを追跡して』で、逃げ出したカチアートを追いかけるうちに幻想と現実の境があやふやになる感じを思い出した。オブライエン自身は嫌がるかもしれないが、ヴェトナム戦争の幻影に悩まされる人を描いたらオブライエンに勝てる作家はいないだろう。もちろん、この小説では、ヴェトナム戦争は一つ二つのエピソードとして描かれるだけであるが、1960年代後半に学生生活を送った者たちに染み込んだ戦争と「運動」、その後の人生の対比が浮かび上がる様は面白い*2
森脇真末味『天使の顔写真』
ハヤカワ文庫に収録された森脇真末味の短編集。80年代後半の作品。キレイな男を描かせたら一番。英一・英二の『Blue Moon』シリーズも文庫化して欲しい。
岡崎二郎『緑の黙示録』
ビッグコミックオリジナルで『アフター0』を連載していた作家。内容としては『寄生獣』のような感じ。怪物は出てこないが、樹木と人間との関係を描いた中篇。『アフター0』も集めてみようかな。
柴崎友香きょうのできごと
河出文庫に収録された。保坂和志が褒めてたから読んでみる。けっこう面白い。

*1:ジェフリーのイニシャル"J・C"が"Jesus Christ"を想起させる。

*2:余談だが、徴兵忌避者としてカナダへと移住したビリー・マクマンのエピソードを読んでいるときに、ジョン・アーヴィング『オウエンのために祈りを』の語り手ジョン・ホイールライトを思い出して下巻を再読したら、泣けてきた。